春先のプロ野球ファンの生態ほど、滑稽で愛おしい自作自演のショーはないと思う。たった数試合の出来事だけで、彼らは容易に世界の真理に到達した気になってしまうのだ。
ペイペイドームの空に舞い上がった、清宮幸太郎の今季第2号。125メートル先へと吸い込まれたあのアーチを、ネット上の善良な市民たちは「弾道がお上品」「今季は30本打てるぞ」などと手放しで崇め奉っている。
ちょっと待ってほしい。まだ開幕して3試合だ。買ったばかりの腹筋ローラーを3回戦がせただけで「シックスパック完成確実」と豪語するようなものではないか。
落ち着け。深呼吸だ。騙されてはいけない。
我々はこれまで何度、春の蜃気楼に踊らされてきたというのか。
171キロの打球速度。
美しい放物線。
覚醒の予感。
甘美な響きだ。
だが、私は決して安易に浮かれたりしない。
ここで「今年の清宮はついにキャリアハイを叩き出すぞ!」などと大声で叫ぶのは、あまりにも軽率というものだ。
絶対に叫ばない。
叫んでたまるか。
私の理性は強靭だ。
だから、私が今、部屋の片隅で背番号21のタオルを無意識にブンブンと振り回しているのは、単なる手首のストレッチに過ぎないのだ。決して、抑えきれない期待で胸が張り裂けそうになっているわけではない。
まあいい、とりあえず火曜の試合も、あくまで冷ややかな視線で彼の打席を監視してやるとしようか。



