
プロ野球選手なんて、全員どこか脳のネジが飛んでいる人間の集まりだと思っていた。
そう思わないだろうか。
毎日何万人の前で自分の技量を見せ物にし、ちょっとミスをすればネットで袋叩きにされる。そんな環境で平然とプレーを続けられる人間が、私たちと同じ真っ当な神経の持ち主であるはずがないのだ。
だが、岩本勉と森本稀哲のイップスに関する記録を読むと、どうやら私の偏見は少しばかり的外れだったらしい。
彼らはあまりにも真面目で、繊細すぎたのだ。 投球や送球という、息を吸うようにできていたはずの動作が、突然できなくなる。脳が「完璧にやれ」と過剰に命令しすぎて、神経回路がショートする。局所性ジストニア。要するに、高度に洗練されたハイスペックPCが、重い処理に耐えかねてフリーズした状態だ。
そんなポンコツ化した天才たちを救ったのが、「大雑把に投げろ」や「ワンバウンドでいい」といった、テキトーな助言だったというのだから面白い。 極限まで自分を追い込んだアスリートの呪縛を解く鍵が、究極の妥協だったとは。
エクセルのマクロをこねくり回して結局ファイルが壊れ、最後は手入力で済ませた私の昨日の仕事となんら変わらない。
ひょうきんなガンちゃんも、派手なパフォーマンスの稀哲も、裏では自分のぶっ壊れた脳の回路と格闘していたわけだ。そう思うと、あの底抜けの明るさすら、狂気を孕んだ防衛本能に見えてきて少し恐ろしくなる。
彼らの見えない傷跡に思いを馳せると胸が熱くなる。
とはいえ、彼らはそのバグを乗り越えて億を稼ぐスターになったのだ。月末のカード支払いに震える私が、彼らの苦悩に共感して涙ぐむなんて滑稽すぎる。 明日からはまた、エラーをする若手には「さてはまた脳がフリーズしたか」と画面越しに毒づく傍観者に戻ることにしよう。


