スポーツの歴史に残る「大記録」とは、要するに球団がファンの財布から合法的に現金を吸い上げるための、壮大な罠だと思う。
細野晴希がノーヒットノーランをやってのけた。あんなに荒れ球が課題だった男が、九回までヒットを一本も許さなかった。嬉しかった。テレビの前で思わず手を打った。余韻に浸って眠りについた。
だが、感動に浸る暇などないのだ。一夜明けたら、もう記念グッズの受注開始である。
直筆サイン入りフォトパネル、5万5000円。強気すぎる。
Tシャツ3900円。
フェイスタオル2500円。
この異常なまでの手際の良さ。まるで彼が偉業を成し遂げることを、春季キャンプの時点から予知していたかのような鮮やかさじゃないか。
球団公式が「限定アイテムが盛りだくさん」などと無邪気に煽ってくる。乗せられるものか。冷静になれ、私。ただ九回までヒットを打たれなかっただけだ。スコアボードにゼロが並んだだけの事象である。それに5万円。狂気の沙汰だ。絶対に買わない。そう心に誓いながらも、オンラインストアの更新ボタンを押す指がなぜか止まらない。
こんな露骨な集金システムにホイホイと引っかかるなんて、どうかしている。球団の掌の上で踊らされるのはまっぴらだ。でも、カートに入れたタオル。タオル程度の購入ボタンを押すくらいなら、神様も許してくれるだろうか。
5月中旬に届くその新しいタオルで顔の汗を拭いながら、またテレビの前でため息をついて、一喜一憂する未来が見える。まったく、とんでもないチームの沼に足を踏み入れてしまったものである。


