人間の記憶なんてものは、案外簡単に上書きされてしまうものだ。私たちがかつて「西川遥輝」というラベルで分類していた、あの打撃と俊足。それが今、目の前で全く違う生物として再定義されようとしている。
5回裏、2点ビハインド。九里亜蓮の放った甘く入るボールをフルスイングで粉砕した。打球はあっさりとライトスタンドに吸い込まれる逆転3ラン。ネット上の有象無象は「パワーフォルム」だの「フェニックス遥輝」だのとお祭り騒ぎである。
いや、ちょっと待ってほしい。昨シーズン、本塁打ゼロの男である。それが今や、打席で不敵なオーラを放つ規格外のスラッガーの顔をしているのだ。
新庄再生工場という言葉は使い古されているが、まさか精密なスポーツカーを解体して重機に作り変えるような狂気のラインまで稼働しているとは知らなかった。人は環境で変わるというが、進化が極端すぎて少しばかり胃がもたれそうになる。
バットがボールを捉える。 打球が飛ぶ。 スタンドが揺れる。 まるで別人のフォロースルー。 見事な放物線。 銅像を建てろなんて声もあるが、迂闊に建てたら来週にはまた別の構えにマイナーチェンジしているかもしれない。
とはいえ、あの豪快なスイングがもたらすカタルシスに、心が跳ねたのを否定しない。明日も彼が打席に立つなら、次はどんな得体の知れないバグを見せてくれるのかと、テレビの前で正座で待機してしまう。



